転職先の話
私の渡航の日取りなどの連絡は社長から引き継いで常務が担当してくれた。無事ビザ関係の書類なども片付き渡航すると、空港に常務が迎えに来てくれた。そして開口一番に「俺が責任もって面倒見る事にしたから。何かあったらすぐ来て欲しい。この国では俺をお父さんだと思え。」と言ってくれた。私は後見人が付かなければいけない年でもないが、見ず知らずの土地での新しい仕事という事もあり、ありがたく思った。
彼を頼る機会は結構すぐに訪れた。最初の六ヶ月は試用期間で給料が低い。ただ、私の場合は外国から引っ越してきて色々とお金も要りようだろう、という事で、家賃は会社が払ってくれていた。そこまでは渡航前にお互い話し合って決めていたのだが、税務署が家賃分も私の所得とみなし、少ない給料からがっぽり持っていくところまでは会社も私も読めていなかった。これは東京で失業保険なしで数ヶ月過ごした後突如として国際引越しをした身の上にはかなりの痛手だった。
いろいろ考えた後私は常務に直談判に行った。お金がなくてしんどいんだが、という私の言い分を聞いて彼はしばらく考え込んでいたが、「分かった。何とかしよう。」と言って笑顔になった。そしてその次の日からお弁当を作って来てくれるようになった。これで一食分の食費が浮く。いや、そうじゃないよおやっさん、確かに親切なんだけどなんか違うぞ!と私はすかさず心の中で突っ込んだが、とりあえず黙って毎日お弁当を作ってもらっておいた。結構おいしかった。
入社して数ヶ月経った頃、私は体調を崩した。新しい暮らしでやはり疲れていたと見えて、帯状疱疹で寝込んだのだ。家でうなっていると常務から電話が来た。「心配だから様子を見に行きたいけど、俺、水疱瘡にかかった事がないんだ。だから見舞えないけど悪く思わんでくれ。」いや、気にしませんよ。来てもらっても、ほら、気を使ってしまうって言うか…。
二週間後やっと回復して出社し、同じオフィスのお兄ちゃんにこの事を話してみた。「そうか~。大変だったね。でも水疱瘡なら俺もかかった事ないよ。」ついでに言うといつも組んで仕事をしている別部署の女の子も水疱瘡未経験だった。危なく大人三人を水疱瘡に感染させてしまうところだった。
しかし水疱瘡未経験の大人が三人も一箇所に固まっているとはなかなか奇妙な気がした。