新しい住みかの話

私のこの国での新しい住みかは、会社が探しておいてくれた家具付きのアパート。二部屋あり、光熱費込みで家賃は円に換算して五万八千円程度。広々としているし便利な立地だし、東京だったら家具なしで八~九万は確実にすると思う。だけどこの町の基準で考えると決して大きくないし家賃も高いらしい。家賃が高いのは家具付きだからしょうがないらしい。

このアパートは四階建ての一軒家の三階部分をアパートとして改装して貸し出している物件だ。すぐ下の階には大家さん一家が住んでいる。大家さん夫婦はどちらともお医者さんで、子供は四人。一番上の子は小学生、一番下の子は幼稚園。一階には大家さんのお父さんが住んでいる。私のすぐ上の階は屋根裏部屋を改装した子供部屋で、ピアノが置いてある。よく小学生の女の子がこのピアノを弾いているのだが、毎回同じ曲を弾いて毎回同じところで間違う。なかなか愛嬌のある演奏である。

大家さん一家は猫を二匹飼っている。この猫が初めて私のところに遊びに来た日、ちょっと馬鹿な事をしてしまった。

ひとしきり猫と遊んだ後、人の家の猫をいつまでも留めて置くのも悪い気がして猫に自宅に帰るように言った。だが当然聞かない。しょうがないので一匹抱っこして外に出し、もう一匹を捕まえに中に戻った。しかしその間に先に出した方がまた入ってきてしまう。その繰り返しで埒が開かないので何とか二匹同時に捕まえて外に出て床に降ろし、ドアの隙間に鼻面をくっつけて入ろうとしている猫を制してドアを閉めた。

そして気づいた。鍵は中だ。ドアはオートロックなのだ。そして鍵穴に部屋の中から刺さったままだった。

この時夜の十時ちょっと前。こんな時間に悪いと思いながら大家さんのところに行き、合鍵を持ってきてもらう。しかし中から鍵穴に私の鍵が刺さっているため開かない。

遅い時間でも対応してくれる錠前屋さんに電話して開けに来てもらう羽目になった。錠前屋さんが来るまで私は大家さんの家でお茶をいただきながら世間話をして待っていた。その間猫は錠前などどこ吹く風で、ぼわーっとあくびをして寝てしまった。